過去に、NHK朝ドラのタイトルにもなった「ブギウギ」。
終戦直後の大ヒット曲「東京ブギウギ」の歌手、笠置シズ子をモデルとしたドラマでした。
「日本のブギ」にスポットをあてた筋書きだったので、アメリカでヒロインが経験したことについてはあまり語られてはいませんでした。
実際に、本場のブギやジャズにふれて彼女がどう感じたのか、興味あるところです。
日本でブギを成功させるためには、ただ本場のものを持ち込むだけではなく、いろいろな作戦が必要だったろうなと想像します。
「ブギウギ」って本来どんな音楽なのでしょうか?
今回の記事では、その歴史的背景やブギウギピアノ奏法を解説します。
「ブギウギ」ピアノ誕生の歴史的背景と奏法
ルーツは「バレルハウス」時代の「ブルースピアノ」
ブギウギは、1920年代のアメリカ、「バレルハウス・スタイル」で演奏していた黒人ブルースピアニストたちによって案出されました。
「バレル」とは、ビールの樽のこと。「バレルハウス」は、ビールの樽の上に板を一枚のせてテーブルにしているような「安酒場」のことですが、そこから転じて「バレルハウスで演奏される粋な音楽」を意味するようになりました。
バレルハウスで演奏するブルースピアニストたちはほとんど楽譜が読めなかったので、耳を頼りに音楽を学び、クラシックの伝統とは似ても似つかない独特なベースラインを考案します。



F、Gなど他のコードでも弾いてみましょう!
同じリズムパターンをゆらすことなく、またどこかの拍を強調することもなく、単調に弾いていきます。このようなシンプルな4分音符によるベースラインに、ブルースフィーリングあふれるメロディー(右手)を入れるのが「バレルハウス・ スタイル」の特徴といえるでしょう。
簡単そうだけど、テンポキープしてステディーに弾くのは、最も難しいことです!
ブルースフィーリングを得るために【ブルー・ノートの使用】
アフリカ系黒人の人々には、西洋音楽にはない音程の取り方がありました。実際には西洋式の楽譜にはあらわすことが出来ない音で(ピアノの鍵盤上には存在しない)、それはブルー・ノートと呼ばれています。

上の図を見てください。白玉で書かれた音符は、私たちが良く知っているC メイジャースケール(ハ長調の音階)です。ブルー・ノートとは、長音階の第3音、第5音、第7音に若干ピッチが上がりきらない音で、図の青線で結んだ二つの音の間にあります(ここでは、♭3・♭5・♭7と表現しましたが、近似値でしかありません)。
西洋の和声とこのブルー・ノートをぶつけると、かっこいい!なんともいえない味がでます。しかし、悲しいかなピアノの鍵盤にはブルー・ノートを弾ける位置がありません。

歌手や、管楽器、弦楽器ならブルー・ノートが表現できるんだね!
そこで、ブルースピアニストたちは「ブルー・ノートに近い味わい」が出せる奏法を工夫しました。青線で結んだ音を同時に弾いたり、ずらして弾いたり(スライド)すると、ブルースの色合いをピアノでもだすことができます。

バレルハウス・スタイルで演奏してみましょう!

上のコード譜は、シンプルな3コード(C F G)によるブルースのコード進行です。バレルハウス・スタイルのベースラインにブルー・ノートを使ったフレーズをのせて弾いてみました。
皆さんも、ぜひ遊んでみてください!
8分音符のベースライン 「ブギウギ・スタイル」へ
1920年代、ジミー・ヤンシー(ブギウギ・ピアノのパイオニアと言われる)、その弟子のクラレンス・スミスらがバレルハウス・スタイルを発展させ、左手に8分音符(実際には付点8分音符と16分音符のはねたリズムに近い)の反復を導入します。


この規則的な力強いリズムには、人々の心に訴えるものがあったのでしょう。シンプルでブルージーなメロディも大衆に受け入れられ、1935年から39年にかけて、アメリカではブギウギが大流行します。
ジミー・ヤンシー、アルバート・アモンズ、ミード・ルクス・ルイスなどがブギウギ最盛期に活躍したピアニスト。また、ブギウギのうねるようなベースラインはジャズミュージシャンにも影響を与えます。この頃、カウント・ベイシー、アート・テイタムらも自らの演奏にブギウギのベースラインを取り入れ、聴衆を楽しませました。
モダンジャズ以降のピアニストでも、オスカー・ピーターソン、モンティ・アレキサンダーらの演奏に、ブギウギのエッセンスを見つけることができます。

ブギウギも弾いてみたいな!

クリスマスソングをブギウギで弾いてみる?
ジングルベルはどうかな?
「ジングルベル」をブギウギ・ピアノで弾いてみよう!
ジングルベルのコード譜です!

コード譜のBからがサビです(~ジングルベル~♪のところ)。
ここをブギウギ調にしてみました。ブギウギ・ピアノの典型的なベースライン②を使っています。
メロディーは変化(フェイクと言います)してますが、いちおうジングルベルのつもり(笑)。
皆さんも、クリスマスにぜひ楽しく弾いてみてください!
まとめ
ブギウギ・ピアノは、1920年代のアメリカで「バレルハウス・スタイル」から発展してきたことをお話しました。
また、ブギウギスタイルの典型的なベースラインを2つ紹介し、共通してブルースフィーリングが大事であること、その要となるブルー・ノートについても解説しました。
このスタイルは1935年から39年にかけて大流行しますが、1940年ごろになるとアメリカではブギウギ熱が冷めてしまったようです。
ちょうど、ビバップの台頭や、戦争(徴兵制、フロアショー・ダンスに重税を課すなどの影響も)と重なり、この時期の大衆の気持ちにマッチしなくなったのでしょうか。
戦後の日本でブギウギが流行したのは(東京ブギウギは1948年リリース)、敗戦から立ち上がり、力強く復興していこうという人々の気持ちを後押しし、明るくしてくれるものだったからかもしれませんね。
確かに、ブギウギの規則的なリズムには、心をわくわくさせるような魅力があります。
みなさんも、ぜひブギウギを弾いてみてください!




